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式辞・法話

卒業式 学校長式辞

学校長式辞

早春を告げるスイセンの花が咲く、中庭の奥にある河津桜が、先日の日曜日に最初の一輪を咲かせました。1月から、この卒業式までに花開くと思って、毎日見上げてきました。なんとか間に合いました。これからどんどん咲いていくでしょう。

桜の花は、ただ温かくなったら咲くわけではありません。一度厳しい寒さに晒されると、眠っていた花芽が目を覚まし、開花に向かうのだそうです。人も同じで、困難や大変なことが、みなさんの可能性を引き出し、成長につながるのだと、つい教訓的なことを考えてしまうのは、教員の悪い癖かもしれません。

今朝は小雪が舞っていましたが、それでもあちこちから新たな生命の息吹が感じるこの佳き日に、多くのご来賓みなさまのご臨席を賜り、卒業式を挙行できますことは、この上ない喜びです。
卒業生の保護者のみなさまも、これまで大切に育ててこられたお子様の成長した姿に、感慨もひとしおであろうと思います。謹んでお慶び申し上げます。また、3年間にわたり、本校の教育活動のために、温かいご支援と多大なるご協力を賜りましたことを、教職員を代表して厚くお礼申し上げます。

たったいま卒業証書を受け取った卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。みなさんの門出を心から祝福します。

みなさんの3年間はどうだったでしょうか。コロナで多くの制約を受けていた学校が、再びいろいろなことを取り戻していこうとしている中での学校生活でした。
さまざまな場面で3年生が躍動する姿が見られました。体育大会、文化祭、クラブ活動でも、日常の生活の中でも、ひたむきに、精いっぱい、力を注いだ学年だったと思います。昨年の3月。この体育館で行われた名古屋平成中村座の歌舞伎公演でも、多くの3年生が活躍してくれました。そんなみなさんの、瞬間瞬間に全力を注ぐ姿があったからこそ、応援合戦のみとなった体育大会をもう一度と、リベンジ企画を行おうという願いが生まれてきたのだと思います。今までの先輩が繋いできたものを見事に引き継ぎ、発展させ、そして後輩の中に残してくれたと思います。

さて、突然ですが、これはどのような場面でしょうか。少し考えてみてください。

人が集まっています。その真ん中で、1人だけ泣いています。周りの人はそれを見て笑っています。

どんな場面か分かりますか。
答えは、みなさんが生まれた場面です。
私の人生にも、いろいろ嬉しかったこと、楽しかったことがありましたが、最大の喜びは子どもが生まれたことでした。それに伴って、大変なことや大いなる悩みも訪れましたが、やはり子どもは何ものにも代えがたい存在です。これは保護者のみなさまどなたとも共有できる思いではないかと思います。そうして生まれた命が、こんなに成長し、いま高校を卒業しようとしている。みなさん一人ひとりの18年間に思いを馳せると、それだけで胸がいっぱいになります。

この「1人が泣いて周りが笑って」には、実は元ネタがあります。ネイティブアメリカンのチェロキー族の人々の教えです。このようなものです。

あなたが生まれたとき、あなたは泣き、世界は笑った。

だから、あなたが死ぬときは、世界が泣き、あなたが笑うような生き方をしなさい。

周りの人々を幸せにすることが、自分の幸せとなるということを伝えています。そのような生き方は、どうすればできるでしょうか。

世界は今、一段と分断の道を進んでいます。自分とは違う考えは攻撃し、排除する風潮があふれています。みなさんの入学前に始まったロシアのウクライナ侵攻はいまだに続き、パレスチナのガザ地区では、人々の生活再建も見通しが立ちません。
平和な国際社会を築いていくには、異なる民族や宗教、文化、意見の違いを理解し、それぞれの多様性をお互いに認め合い、受け入れていかなければなりません。この同朋高校の建学の精神となっている「同朋和敬」の精神が、とても重要になってきていると思います。人間の命や尊厳を大切にすることで、価値観の違いを乗り越えることができるでしょう。
みなさんには、同朋高校での生活を通して培った、違いを認め合う寛容な心、しなやかで強い心をもって、社会で活躍して欲しいと願っています。

今日のこの卒業式は、みなさん一人ひとりが、それぞれの人生を歩むための大事なスタートとなります。未来は常に不確実です。それでもみなさんには、未来を切り開いていくエネルギーと可能性があります。目標を持ち、何事にも挑戦してください。挑戦には困難が伴うでしょう。最初の桜の話に繋がりますが、困難も大事なことに出会う大切な縁となります。第二次世界大戦時に、イギリスの首相だったウィンストン・チャーチルはこう言っています。

Kites rise highest against the wind – not with it.
凧が一番高く上がるのは、風に向かっているときである。風に流されている時ではない。

出会う困難を、花芽を目覚めさせる寒さにして、また凧を舞い上がらせる風にして、それぞれの世界で、一歩一歩 歩んでいってください。何年かのちに、また一段と成長した姿で学校に顔を見せに来てください。再会を楽しみにしています。
みなさんのこれからの人生が、驚きと喜びとやさしさにあふれたものでありますように。

令和7年2月22日
学校長